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マネーサプライが縮小していく過程を読み取ることができる。
ではこうした信用収縮が起きたときには、どのような対応が必要であろうか。
ここに中央銀行の重要な役割がある。
信用収縮が起きているときには、市中に大量の流動性を供給することで信用収縮を止めることができるのだ。
金融機関が保有している国債を購入すればそれだけ金融機関の手元に流動性が供給される。
国債を購入するのでなくても、金融機関が保有する国債を一時的に預かって、それに見合う資金を貸し出すことも一つの方法である。
金融が急激に収縮しているにもかかわらず、中央銀行は十分な流動性をマーケットに供給していなかったのだ。
金融危機のときには、経済に流れるべき血液(マネーサプライ)が枯渇する可能性がある。
救えるのは中央銀行だけなのである。
ウォール街の株の大暴落は深刻な事態ではあったが、もしその後に十分な流動性が提供されていれば大恐慌には至らなかったのではないかというのが、大方の経済学者の理解といってよいだろう。
さて、当時と現在とを比べれば、その違いは明らかだろう。
2008年9月のリーマンショック以来、各国の中央銀行は競うようにして市場に流動性を提供している。
生き物である金融は急速に悪くなっているが、中央銀行はそれに対して大規模な流動性を出し続けている。
大恐慌の教訓はしっかりと活かされているのだ。
金融危機の下で信用が急速に収縮しているときに中央銀行が流動性を市場に大量に放出するのは、いわば緊急処置のようなものだ。
放置しておけば多くの金融機関が資金不足で倒れてしまうことを防ぐための、止血行為であると言ってもよいかもしれない。
金融政策は、この後に忍び寄ってくるデフレに備えなくてはいけない。
日本人は、身近にデフレを経験した数少ない国民である。
1990年代後半のY証券、H銀行、N銀行などの破綻を契機に起きた金融危機を受けて、日本経済が深刻な状況に見舞われたからだ。
戦後の世界経済でデフレに陥った国は日本だけだと言ってよいだろう。
一方、1930年代の世界大恐慌の時代には、多くの国がデフレに陥る結果となり、経済をさらに痛めつけることになった。
デフレとは物価や賃金が下がっていく現象である。
物価が安くなるのはよいことではないかというお気楽な議論が一時あったが、物価や賃金が下がり、企業の売り上げや消費が落ち、失業が増えるというデフレの負の連鎖は、経済に深刻なダメージを与える。
デフレの大きな問題は、負債を抱えている企業や国が、さらに厳しい状況に追い詰められることにある。
最近の日本のデフレの経験を思い出してほしい。
企業の多くはバブル以降、巨額の債務を抱えていた。
デフレで物価や売り上げが下がっても、債務(借金)の金額は変わらないため、それだけ債務の実質的な負担は大きくなるのだ。
世界的な金融危機の中で、日米欧をはじめとする多くの国がデフレに陥る可能性が出てきた。
もしデフレになれば、ただでさえ金融危機によってバランスシートが傷んでいる欧米の金融機関は、さらに厳しい事態に追い込まれるだろう。
日本だって、かつてのデフレの恐怖に再び直面するのはぜひとも避けたいところだ。
こうした事態を予想して、各国の中央銀行はデフレへの備えを始めている。
もっとも象徴的なのは、米国の中央銀行が実質的にゼロ金利政策に踏み切ったことだ。
さらに、金利を下げるだけでなく、CPなどを積極的に購入することで流動性を市中に積極的に供給し巨額の債務を抱えている政府も同じだ。
デフレでも過去の財政赤字の遺産である債務額は変わらないが、デフレによって税収などは大幅に落ち込む。
財政運営はますます難しく欧州中央銀行(ECB)や英国銀行の政策金利も、それぞれの歴史始まって以来の低水準となった。
日本銀行も、政策金利を0・1%に設定している。
ゼロ金利目前である。
このような一連の金融政策には、日本のデフレの経験が大きく活かされている。
ゼロ金利政策はもちろん、通常では考えられないほど大胆な金融緩和策である。
金利をマイナスにすることはできないという意味では、これ以上金利を下げる余地はない。
だが日本のデフレの経験では、ゼロ金利を超えるような大胆な金融緩和政策が行われ一つは量的緩和政策である。
中央銀行が積極的に国債やCPなどを購入することで、市中に貨幣を供給したのだ。
典型的な例として、中央銀行が定期的に買い上げる国債の額を増やすという手法がとられた。
結果的には、空から紙幣をばらまくのと同じような効果を生む。
デフレ時には、平時には考えられないような大胆な緩和政策が必要なのだ。
もう一つ、ゼロ金利政策や量的緩和政策に「時間軸」を入れるという政策も有効であった。
すなわち、物価が上昇に転じるまでは、ゼロ金利政策や量的緩和政策を止めないというコミットメントを表明するのだ。
ある意味ではインフレターゲティング政策と似ている。
時間軸の要素を入れることで、市場にデフレが収まるまで金融緩和を続けると表明するからだ。
日本が経験したデフレは、恐らく、今後の主要国の金融政策に様々な有益な情報を提供するはずだ。
平時では考えられないような大胆な政策を行わないとデフレを止めることができないという教訓も、主要国は学んでいるようだ。
日本がデフレに陥った90年代、日本のデフレ対策は大きく遅れたが、今回については、日本も含めて主要国の中央銀行が素早い対応をとってくれると期待している。
主要国がデフレにまで進むのかはまだ分からない。
日本については近いうちに物価上昇率がマイナスになるという予想をする人は多い。
ただ、物価下落が長期間続くかどうかは不確定だ。
とはいえ、多くの国がデフレになりやすい状況であることは確かだ。
皮肉なことに、主要国の金融政策が進歩して、インフレ率を低く抑えることに成功したことが、結果的に、デフレに陥りやすい状況をつくってしまった。
インフレ率を低く抑えたことは好ましいことであったのだが、ベースのインフレ率が低いと、景気の悪化によって物価上昇率は簡単にマイナスになりかねないからだ。
もう一つ指摘しておきたいことがある。
今回の金融危機と深い関係がある。
主要国が一斉に高齢化する中で、需要不足が起きている。
どこの国も国内で十分な需要をつくり出せていない。
米国だけが例外的に金融バブルを起こし、世界の需要を支えてきた。
金融危機でその米国の需要が他の先進国並みに減少すると、世界的な需要不足が生じることになる。
デフレ的な影響を世界経済にもたらすわけだ。
需要をいかに生み出すのかという点は、今後の主要国の経済運営にとって重要な課題となるだろう。
世界大恐慌に話を戻そう。
ウォール街の株の大暴落は世界大恐慌の入り口にすぎない。
その後、様々な形で好ましくない政策的対応があり、経済の傷を深くしていった。
特に問題だったのが、各国が行った通貨切り下げと、保護貿易政策である。
世界大恐慌に突入した時代、多くの国は金本位制という通貨制度をとっていた。
金本位制の下では、各国の為替レートは固定されている。
なぜ各国は為替レートの切り下げに走ったのだろうか。
国内の産業を保護する効果が期待できるからだ。
具体的なイメージを持ってもらうために、たとえば日本が金本位制をとっていて、その下で為替レートが一ドル100円であると仮定してみよう。
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